姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
鬼山は、突如として現れた一つの気配に、危機を覚えた。
油断していた。
銀司が失神した事で、もう終わりだと思っていた。
だが、自分達は第三者に『見られて』いたのだ。
すると、どこからかパチパチと、場違いな拍手が聞こえてきた。
「……さすが、テミスは毎度、どんな相手にも容赦をしませんね。
非常に残酷で、羨ましい事です。
しかし、困りますね。
こんなにも、部下を痛めつけてくれるとは……」
「誰だ!」
中性的な、少し高めのトーンの声。
鬼山は、拳を握り固めると、勢い良くぶんと宙を一薙ぎした。
それだけで空気の流れが少し変わり、煙が若干薄くなった。
すると、血まみれの銀司を肩に担ぎ上げた金髪の青年の姿が、おぼろげながらに見えてきた。
「……おお、凄い怪力ですね」
青年は、猫のように目を細め、感心したように笑っていた。