姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
青年は、銀司を担ぎ上げたまま、さっさと立ち去ろうとした。
普通に歩いているように見える。
しかし、彼はこのテミスの包囲網を簡単に抜け出せるのだろう。
そんな余裕を感じた。
鬼山は、痺れ始めた舌に苛立ちながら尋ねた。
「待て……彼を……連れて帰る目的は、何だ……」
彼は、フェニックスが簡単に仲間を切り捨てる事を知っていた。
今まで、何人も見てきた。
ヘマをした構成員を簡単に殺すことは有名だ。
遺体をそのまま放置する事も多い。
拘束まであと一歩というところで、突然爆発して粉々になった者もいた。
皆、自爆というよりは、体内に時限式の爆弾を仕掛けられていたようだった。
今回の千年狐『玉野喜咲』にしても、そうだろう。
だから、テミスが無理矢理にでも敵を拘束する理由は、彼らを保護する意味もあるのだ。
しかし今回、銀司はフェニックスとして、彼の『上司』に連れ去られようとしている。
それは、一体何故だ……?