姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
「……っく!」
彼女は何とか悲鳴を呑みこんだが、その血の匂いにエリアルはぞわりと殺気立った。
「――小夜子!」
「おや、そっちの人間に当たってしまいましたか」
青年は、つまらなそうに言った。
まるで、悪びれていない様子である。
「……事情は分かりませんが、そんな人間、いつまで抱えてるおつもりです?
重いでしょう?
さっさと落としてしまえばいいじゃありませんか」
青年は、柏手を打った。
すると、彼の背後からヒュンッと幾筋もの光が飛び出し、二人を襲った。
エリアルは、片手で小夜子を抱き変え、装着したままだった鍵爪で、その光を弾き返した。
その刹那、彼は金属のぶつかるような音を聞いた。
(――あれは、矢か?)
弾かれ、操作を失った『矢』の姿を、彼は一瞬捉えた。
奇妙な形の『矢』だった。
『⇔』だ。
矢羽が無く、上下に矢尻が付いている。