姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③


「……ごめん」
 
二人の声が揃った。
 

少しだけ沈黙して、結局エリアルが先に言った。


「……傷、大丈夫かい?」

「……痛いわ。ねえ、エリアル」

「なんだい?」


「……『ごめん』くらい、先に言わせてよ」
 

小夜子は、エリアルの胸元にまた顔をぐりぐりと押し付けた。
 

彼は苦笑しながら、


「分かった、分かったって……だからもう、二度とあんな事言わないでくれ」


「それは約束出来ない」


「だーめ」
 

エリアルは、くいっと小夜子の顎を指で傾け、顔を近付けたが、

思いの外に彼女が抵抗したので、二度目は失敗に終わった。


しかも、暴れているうちに小夜子が、いよいよ貧血を起こして気絶しかけたので、


エリアルは大急ぎで人のたくさんいるところ――『テミス』のいる場所へと飛び立ったのだった。


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