姉さんの先輩は狼男 孝の苦労事件簿③
「……っぬわあああぁぁああっ!」
「あ、よかった。ちゃんと声出せるな。よし」
「わあああぁあ! おじさん誰!?」
「おじさんって言うなよ。
俺はまだ、ピチピチの三十ジャストだっていうのに……」
パニックを起こしかけて、俺はそのおじさんに見覚えがある事に気が付いた。
「……あ、おじさんあの時の……」
「おう、よく思い出したな。体、大丈夫か?」
「さあ……何か、固定されてて、動けないんだけど……」
「ああ、それそれ!
いやあ……君の寝相が異常に悪くて、ベッドからごろごろ落っこちるから、
やむを得ずナースがベッドごと君をぐるぐる巻きにしてな……」
「何それ俺かっこ悪い!」
確かに思い当たる事はあった。
俺は、慣れない寝具が苦手なのだ。
修学旅行には、こっそり枕を鞄に忍ばせる人間だ。
寝付きが悪くなるのはまだしも、俺の場合、眠っている間にごろごろ転がって、まわりに迷惑をかけてしまうから。
イタズラされて、一人で板の間で目を覚ましたこともある。
だけどまさか、それがこんな形で出てしまうなんて……。