アネモネ
退院は明後日らしい。医師によると直哉は、体調の回復が早く、直ぐに傷も治るそうだ。
今日は懐かしい花を持ってきた。
アネモネという花だ。
私の誕生日になると色とりどりのいつもアネモネをくれる。
アネモネに特別な花言葉が有るのだと思うと、そうでも無いらしい。
「儚い恋」、「恋の苦しみ」、「見捨てられた」、「見放された」がアネモネ全体の花言葉だ。
詰まり直哉君が花言葉など気にしないで買っているか、私との関係が飽きたという意思表示か。
どちらにしろアネモネの花言葉は私は嫌いなんだ。
なのに何でこの花を持ってきたかというと、仕返しというものか、否か。気分だったからだ。
「この花。アネモネっていうの。直哉君が毎年誕生日にプレゼントしてくれる花だよ。綺麗でしょ?」
「嗚呼、綺麗だと思うよ。ありがとう。」
目をくしゃりとして明るい笑顔を見せた。
「直哉君はさ…混乱していないの?」
「どうして…?」
「だってさ。起きたら知らない女が彼女とか名乗ってさ。気味悪いと思わない?」
「えっ…?だって早紀さん本当に彼女なんでしょ?記憶が無いからって前の様にならない訳じゃない、…から少しずつ、早紀さんのことを知り、少しずつ君の望んでいる彼氏になるよ。」
頬を照れくさそうにかき顔を赤くさせた。
「…直哉君は…今のままで十分理想の彼氏だよ。」
ありがとうと直哉君が笑う。アネモネの花の匂いが部屋に広がった。