ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋

「待って下さい!」

必死な声でそれを遮ったからか、彼はドアノブに手をかけたまま一度止まった。

「お願いシュヴァルツさん。出ていかないで下さい!」

彼の背中は過去の記憶に重なった。

周囲の人が私から離れていくとき、彼らはいつもこうして背中を見せる。

私はどこか諦めていて、それにすがりつくということはせず、その背中を見送ってきた。

でもシュヴァルツさんは別だ。

まだ出会って数日しか経っていないけれど、彼が離れていってしまうと思うと、寂しくて耐えられない。

上着を被ったまま彼のところまで歩き、逃がさないように袖を小さく掴んだ。

振り払われることはなく、そのことにまず安堵した。

彼の袖に涙がポタリと落ちたことで、私は自分が泣いていることに気づいた。

「お願いです。ここにいて下さい。私は大丈夫ですから」

本当は自分がこんなふうに誰かに甘えてはいけない人間だということも頭では理解している。それでも、今は彼を手放せなかった。

< 100 / 209 >

この作品をシェア

pagetop