ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋

「アカリ」

一歩近づいた彼に、私はビクリと体が跳ねた。

「ごめんなさいシュヴァルツさん。困らせてしまって……」

「今さら困りはしない。お前は泣き腫らした顔で、何度館へ来たと思っている」

私の体はピタリと硬直した。

泣き腫らした顔で館へ来た、それはこの世界に来てからの話ではない、と直感で分かった。

覚えはありすぎるほどにあったのだ。

月夜ヶ丘のヴァンパイアの館は、昔から、私の弱い部分を唯一さらけ出せる場所だった。

叔母さんの家で従兄弟に苛められたときも、そのあとその従兄弟が後遺症が残るほどの大怪我をしたときも。中学で疫病神だとからかわれたときも、高校で付き合いが悪いと無視をされたときも。

あの暖炉の前に立ち、泣きながら弱音を吐いた。

誰かが聞いてくれている気がしたから。

あの館だけが、誰も知らない私の本音を唯一受け止めてくれる場所だった。

……どうしてそれを、シュヴァルツさんが知っているの?

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