ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋

「書斎にいると、暖炉の向こうからすすり泣く声がいつも聞こえていた。お前が泣いている姿も見えた。お前は何度もそこへ来て、毎日のように泣いていただろう。まるで俺が見えているかのように」

そう言われ、私は今まであの館の中で泣いていたときに吐いていた弱音を記憶から手繰り寄せた。

それは誰にも聞かれたくないものばかり。

それを、シュヴァルツさんに聞かれていたなんて……。

彼から少し距離をとり、首を左右にゆらゆらと振った。

「見られてたなんて、知らなかったです……」

冷めた顔で黙って見ていただけのシュヴァルツさんが容易に思い浮かぶ。

彼はあの書斎で本でも読んでいたのだろう。

暖炉の火の音だけが響く中、宴からは離れて、彼がひとりであの部屋に静かに佇んでいるとき、暖炉から私のすすり泣く声と、たくさんの情けない言葉が聞こえてきたはずだ。

思い出すだけで、恥ずかしくて死にそうだ。

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