ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
広い部屋の中はしばらく沈黙していた。
扉の前でふたり立ったままでいたけれど、やがて彼の方から私の手をとった。
「えっ」
強引に引き寄せられ、彼の手が腰にまわされる。
私はこのはだけた格好のまま密着することをためらい、反射的に被せられている上着に腕を通し、蓋をするように前を閉じた。
それを確認すると、彼は私の体を羽でも生えているのかというくらい軽々と持ち上げ、部屋にあった窓をカーテンとともに開け放ち、素早い動きでその窓枠に足をかける。
「ちょ、ちょっと待って下さい、何をっ……!」
冷たい風が窓から勢いよく室内に入り込んできて、その風に向かっていく要領で、シュヴァルツさんは躊躇なく窓から外へと飛び立った。
「ひゃっ」
外気の冷たさに包まれた。
何の断りもなく突然、空へ舞い上がっていく。
いつの間にか外は真っ黒な色に変わり、大きな月が浮かんでいた。
落ちないようシュヴァルツさんにしがみついたが、彼は上へ上へとどこまでも昇っていく。
雲がそばを通り、月の光が眩しい場所まで到達すると、彼と私の足の下には、ここへ飛び出してくるまでにいたはずの大きな街が輝いていた。