ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
「犯人はこの世界に戻っている可能性が濃厚ですから、今は人間界よりこちらの方が危険です。今は犯人が誰であるかより、一刻も早く、ダークナイト様から鍵を受け取ってアカリ様を人間界へ逃がすことを優先にお考えなのですよ」
それじゃあ、私、もうすぐ人間界へ戻れるのかな?
「そうなんですか……」
……あれ、おかしいな。全然嬉しくない。
だってまだシュヴァルツさんに何の恩返しもできていないし、犯人も分からないまま。
このリストを読みとくには、月夜ヶ丘町の行方不明事件について詳しく知っている私がいたほうがいいはずだから、これから役に立てると思ってたのに。
「私、シュヴァルツさんの力になりたいのに……」
「アカリ様はお優しいですね。シュヴァルツ様も、そんなアカリ様を危険な目に遇わせたくないのでしょう」
優しい、と言われることには違和感があった。
シュヴァルツさんのために彼の力になりたいんじゃなくて、全部自分のためだ。
シュヴァルツさんと離れたくない。
まだ彼のそばに置いてもらいたい。そのために、役に立ちたいだけ。
私、シュヴァルツさんのこと……。
「アカリ様?大丈夫ですか」
「あ、はい……。大丈夫です。シュヴァルツさんを起こさないようにしますから。ノア君は寝てて大丈夫ですよ」
「そうですか?では、お言葉に甘えて……」
ノア君も鳥かごの中で小さくなって、大きな瞳をパチリと閉じると、ただの真っ黒な塊になった。