ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
第四章◆暖炉の向こう側
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翌朝、窓の外を見ると太陽は出ておらず、空が暗闇から灰色へと変わっていて、空全体が濁った雲で覆われている。
部屋へ運ばれてきた朝食は、パンや果物で、人間が食べるものと特に変わらず、私はホッと胸を撫で下ろした。
「食べないんですか?」
「ああ」
シュヴァルツさんはテーブルのバスケットに手をつけず、その理由を聞いても答えてはくれない。
怪訝に思ったあとで、もしかして、昨晩私の血を飲んだことが彼にとっては食事だったのかも、と考えつくと、吸血をされたときの感覚を思い出して恥ずかしくなった。
「私、食事に人間の血が出てきたらどうしようかと思ってました」
誤魔化すためにそんな冗談を言うと、ノア君はクスクスと笑う。
「まさか!人間の血は高級品ですから下界には出回りませんよ。人間界へ行き、眠りについた人間からこっそりと分けていただくしかないのです」
「そ、そうなんですか……」
蚊の仕業と同じように言うが、こっそり人間から血を吸うのはこの大きなヴァンパイアたちなのだ。
思えば人間界の館は月夜ヶ丘にあるのだから、近くに住む私もやってきたヴァンパイアに血を吸われていたっておかしくない。
その様子を想像するとゾッとした。