クリティカルロマンス
クリティカルロマンス
愛されること。
申し分のない人柄の恋人。
優しくゆっくり流れる時間。
安らかで穏やかな心。
それらはすべて、私がほしくて仕方のなかったもの。
それなのに手に入れたと思えた今、それが逆に私の不安を誘う。
「美里、おやすみ」
送ってもらったマンションの前で車を降りると、高柳さんは静かに車を発信させた。
高柳さんは二ヶ月後の六月に結婚を控えた、私の婚約者。私よりふたつ年上の三十歳。
友人の紹介で一年前に知り合った。
背がすらりと高く優しい顔立ちをした紳士的な人で、穏やかな人という印象は、出会ったときからなにひとつ変わらない。
彼氏の浮気という手痛い失恋をしたばかりの私は、高柳さんの優しさに惹かれて、二週間後には彼からのアプローチで交際に発展した。
その腕に包まれると、どんなに辛いことでも跳ね除けていけると思える。
その瞳に見つめ返されると、暖かい気持ちに包み込まれる。
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