クリティカルロマンス
彼といるということは、私の未来に穏やかな時間が保証されるということ。
決して揺らぐことのない、確固たる毎日が送れるということ。
そこまでわかっているのに。
それ以上、ほかに望むものなどないはずなのに。
不満のないことが、逆に私に不満をもたらせる。
高柳さんは、なにも悪くない。
私ひとりの身勝手な思いだと、よくわかっている。
けれど……心を弾ませることなく、ときめいたりすることもなく一生を終える不安が、私を深い迷いの森へと引きずり込む。
すべてを受け止めてくれる優しさが、ときに物足りなさを感じさせて、迫りくる結婚に焦らずにはいられなかった。
「はぁ……」
遠ざかるテールランプを見送っていると、私からため息がひとつこぼれて消えた。
「美里ちゃん、こんばんは」
背中から掛けられた声に振り返ると、駐車場へ止められた車から同じアパートに住む隣人が顔を出した。
青木さんだ。