クリティカルロマンス
少し強引さをはらんだその行動に、私の鼓動がトクンと弾む。
チラリと盗み見た青木さんの横顔に、心が乱れた。
……私、まだドキドキしたりするんだ。
こんな気持ち、残っていたんだ。
なにかが起こりそうな予感に、期待が後ろめたさを上回った。
高柳さんとでは感じなくなったときめきに、新鮮な気持ちが蘇る。
遠くに置き忘れてきた感情が、沈黙に包まれたまま少しずつ大きくなっていくのを抑えることができない。
夜が視界を遮っているせいか、昼間の海よりも波の音が大きく感じられる。
闇が私たちを隔離して、心を悩ませていることから遠ざけてくれる今の瞬間を愛しく感じた。
私には青木さんしかいないような、ずっと前からこのときを待っていたような、そんな妄想に取りつかれる。
妙な感情が芽生えて、収拾がつかなくなった。
あっ……。
ふと足元が砂浜にとられる。
「おっと、大丈夫?」
青木さんは私の手を強く引き、その弾みで彼の胸に飛び込んでしまった。