さようなら、ディスタンス。



チェーンの牛丼屋。暗闇。ガソリンスタンド。暗闇。信号の青。


窓の外から、とぎれとぎれに光が差し込んでくる。


バスは曲がり、背の高いオレンジの光の下を進む。


国道を抜け、高速道路に入ったのを確認し、僕はカーテンを閉じた。



消灯時間になり、バスの中は暗闇に包まれた。


何も見えなくなると、心と向き合いざるを得ない。



彼女の声が頭の中で繰り返される。



――『東京』、すっごく、いい曲だった!



「……うるせーよ」



断ち切るように、小声でつぶやく。静かに鼻水をすする。何度も。



ようやく彼女がライブで泣いていた理由が分かった。


『東京』は彼女の心に届いていた。


ずっと僕の音楽に目を向けてくれなかった彼女が、ようやく僕の音楽を認めてくれた。



涙がこぼれないよう、目を閉じた。


泣きそうな顔で、バンド頑張って! と言ってくれた彼女の姿が脳裏に浮かんだ。



ありがとう、と伝えた時、僕は上手く笑えていただろうか。


ファンの子と接するときと同じ笑顔ができていただろうか。



東京に戻ったら、曲を作ろう。


未織にとらわれない、新しい曲を。



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