さようなら、ディスタンス。
☆
「あーねむ。ふわぁ~」
「ぶっさ」
「うっさい」
「何、寝不足? そんなに悩んでたんすか?」
「違うよ。逆。のろけていい?」
「ダメ」
稲穂がそよそよ揺れる爽やかな朝に、ちっ、と舌打ちを響かす。
一発ぶったたこうと思ったが、急に腕がひっぱられた。
彼に思いっきり寄りかかりそうになる。
かすかな温度を感じるくらいのところで、ぎりぎりバランスを保った。
なにかと思えば、一歩先に犬のウ〇コが。あぶなっ。
……調子がくるうな。くそぅ。
「そういえばさーあんたは彼女とどーなの?」
そう問いかけると、彼――祐希はイヤホンを装着しようとする手を止め、
「は? どうって?」
と、怪訝そうな表情をわたしに向けてきた。
おい、何、音楽聞こうとしてるんだよ。
偶然通学路で会っただけにしろ、一緒に高校に向かっているはずなのに。