さようなら、ディスタンス。
☆☆☆
『東京というタイトルの音楽は名曲が多い』といつか彼は言っていた。
例えば? とわたしが尋ねると、彼は知らないバンド名をいくつか挙げた後、『おれもそういう曲を作りたい』とつぶやいた。
それがフラグだったのかもしれない。
『未織、大好きだよ』
『だったらわざわざ東京なんか』
『行くよ』
『わたしが、行かないでって言ったら?』
『気持ちは嬉しい』
『でも……っ』
『ごめん、もう決めたから』
だめだ。これ以上何かを言ったところで、彼はきっと『ごめん』としか言ってくれない。
大好きな彼氏、光くんが東京に行くことは、もう決定事項らしい。
BGMは、国道を猛スピードで走り抜ける車のエンジン音。
ただよっているのは、大型トラックかららしき排気ガス臭。
普通こういうシーンは、もっと絵になる場所で繰り広げられるはず。
町が見渡せる丘とか、夕日が差し込む放課後の教室とか。
わたしたちが今いるのは、国道4号線沿いのだだっ広いコンビニ駐車場。