さようなら、ディスタンス。
「あのさ……」
男友達が、ある境界線を超えようとしてくる。
それに気づくとその人へのバリアは自然と厚くなる。
だって友達は友達だ。わたしには光くんという彼氏がいる。
廊下の窓から見えたのは、厚みをもった灰色の空。
雨降りそうだし、早くこの場を終わらせたい。
隼人くんとは普通の友達のままでいたい。これ以上、話を聞きたくない。
ということで、拒否る言葉を発しようとした、その時。
「何してんの? 楽しそーじゃん」
突然、耳に入ったのは、今話題にしていた人の声。
「うわっ!」「ビビった!」
わたしと隼人くんの声が混ざった。手もぱっと離れた。
急いで振り返る。
すぐ近くで、祐希がわたしたちの様子を興味深そうに見つめていた。
「なに? 隼人くーん。俺とこいつの関係、そんなに気になんの?」
「そりゃ気になるべー。いっつも一緒いるじゃん」
軽いテンションの祐希に対し、隼人くんはパーマがかった髪をいじる。
普通に友達だよ! と割って入ろうとしたけど、
祐希がどう答えるか、ちょっと気になった。
ちらっと祐希に視線を合わせる。彼もまたわたしを横目でとらえる。
確かに祐希と一緒にいる時間は長い。
気が合うし、何でも言い合える関係は心地がいい。
わたしとの関係を祐希はどう思っているんだろう。
もしかして、全然そんなそぶりを見せないけど、祐希ってわたしのこと結構好きとか? いやいやまさか。祐希も彼女いるってば。ってか意外とわたしモテるのかな? 確かにわたし、光くんっていうめちゃくちゃカッコいい人彼氏にしちゃってるし。
なーんて、うぬぼれた考えを巡らせてしまったが。
祐希はわたしを指さし、こう答えた。
「友達以上せふれ未満」
その瞬間、口より先に足が反応してしまい、わたしは祐希のケツにローキックを浴びせていた。