さようなら、ディスタンス。
☆
「あれ、怒ってる?」
「怒ってない!」
「ケツ蹴られたのに俺、傘入れてやってんじゃん」
「じゃあ出る! さようならっ!」
捨て台詞を吐き、細かいしずくの中へ突入しようとした。
しかし、スカートの裾がきゅっとつかまれる。
「みおりん、帰っちゃうの? やだぁ」
目の前で小さな傘を広げ、わたしを見つめているのは、おかっぱヘアのかわいい女の子。
結局、「ううん。美羽ちゃん遊ぼう。この変なお兄ちゃんなんかほっといてさぁ」
と態度を和らげてしまうわたしだった。
小粒の雨により、まわりの景色は普段より色味を濃くしている。
湿ったアスファルト上を祐希とわたし、祐希の妹――美羽ちゃんの3人で進む。
ちなみにわたしだけ傘がない。不本意ながらも祐希の傘に入れてもらうしかなかった。
「ねーみおりん、お兄ちゃんって変なの?」
「そうだよ。ヘンタイだよ!」
「やだぁ、お兄ちゃんヘンタイ!」
「そーだヘンタイだー!」
美羽ちゃんを巻き込んで祐希を非難すると、
お前美羽に変なこと吹き込むんじゃねー、と言われ、脇腹に肘鉄をくらった。
美羽ちゃんは祐希の10歳下の妹。
わたしは夏休みや冬休みに学童ボランティアに行っているため、美羽ちゃんとは仲良し。
今日は祐希のお母さんが仕事で遅くなるため、祐希が美羽ちゃんの学童への迎えに行くことになったらしい。
付き合ってってそういうことね。美羽ちゃんの面倒見てってことね。