さようなら、ディスタンス。







壁に立てかけられたスケボー、有名らしいバンドのおしゃれなポスター。


テレビの前にはPS4が置かれていて、ベッドには漫画や文庫本が散らばっている。



男子っぽい空間の中、ローテーブルに広げられているノートや問題集がやたら目立っていた。



「へーちゃんとテス勉やってるんだ」


「一応、受験生じゃん。俺ら」


「祐希はどうすんの? 大学」


「東京でも行こっかな」


「えっ?」



差し入れのカスタードシューを祐希に渡し、自分用に買ったレアチーズクリームシューを口にする。


東京発言にびっくりして、クリームを吹き出しそうになった。



「まー家出ようとは思ってるよ。俺の頭で行けるとこになるけど」


「へぇ。そうなんだ」



今は、ローテーブルをはさんでもぐもぐタイム中。


祐希はパーカーにハーパンという部屋着。耳には透明なピアスが刺さっている。



「それより、お前、隼人のこと避けてるべ? なんで?」


「なんでって。うーん」


「あいついいやつじゃん。イケメンだし」


「隼人くん、なんか合わないんだよね。友達としてはいいんだけど。スマホゲーでも強いボス戦発動してすぐわたしに救援出してくるし。たまには自分でHP削ってよって思う」


「あはは、なにそれ」



祐希はシュークリーム片手に、珍しく素直な笑顔になった。



八重歯は笑った時にしか見せない。


やる気のなさそうな目はふわりと細められ、涙袋が浮かび上がる。



クールってわけじゃないけど、たまにしかこういう表情はしない。たいていバカにしたような笑いばかり。



今、祐希はわたしと2人きりでいることをどう感じているんだろう。


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