さようなら、ディスタンス。
窓から差し込んでくる光が、少し弱くなってきた。
そろそろ美羽ちゃんとお母さんが帰ってくる時間だ、たぶん。
「じゃあこれ食べたらわたし」
「もう帰んの?」
祐希は机に置いたスマホを指でいじりながら、ちらりとわたしを見る。
本当は、まだここにいていいんだけど。
どう答えたらいいんだろう。
言葉を詰まらせていると、なぜか祐希はわたしの顔を見つめ、くくくと笑いをこらえた。
「あのさぁ、さっきから。それ、わざと?」
「え? 何?」
キョロキョロしている間に、窓からの光が一瞬だけ途切れた。
祐希は立ち上がり、わたしの隣にどかっと座る。
手が伸びてくる。頬を親指でなでられる。
どうやらほっぺにクリームがついていたらしい。
そのまま祐希は指についたクリームを舐めた。その様子を見つめていると、近い距離で目が合った。
「レアチーズ美味いじゃん。交換しよ」
2人きりの空間、すぐ隣に祐希がいる。
「あんたいっつも人のほしがるよね」
「お前がいっつも美味そうなの買うのが悪い」
とりあえず憎まれ口をたたくと、すぐに言い返される。
うん。いつも通りのパターンだ。
距離が近くても、わたしたちの間には変わらない空気が流れている。