さようなら、ディスタンス。
ふと、彼の左耳のピアスが目に入った。
自然と手が伸びる。ぎりぎり触れそうなところで止めた。
祐希はわたしの動きに気づいたらしい。ん? と切れ長の二重をわたしに向けた。
「これ、似合ってるよね」
「あー。ピアス?」
「わたしも、空けてみたいな」
そう伝えると祐希はすっと視線を外し、交換したシュークリームを口に入れた。
ちょっとした沈黙がわたしたちを包む。
永遠に続いてほしいような、早く終わってほしいような、そんな間だった。
彼はごくりと最後の一口を飲み込み、ぼそりと沈黙を破った。
「いいんじゃない? そしたら片方ずつでつけれるじゃん」
「…………」
口元がゆるまないよう、唇は固く閉じた。
声は出さず、うなずきだけで意思を返した。
祐希は軽く微笑みながら「よいしょ」とわたしの頭に手を置いて立ち上がり、さっきの位置へと戻った。
それからすぐ美羽ちゃんと祐希母が帰ってきたため、挨拶してから祐希の家を出た。
大丈夫だ。
祐希とは、家で2人きりになっても、何にも起きない関係だ。
何にも起きないことに、ほんの少し物足りなさを感じるのは気のせいだ。