さようなら、ディスタンス。
無事、右の耳たぶにステンレス製のファーストピアスが刺さった。
ベッドに腰かけ、鏡を貸してもらいチェックする。
新しい自分になれた気がしてワクワクした。
祐希はすぐ隣に座り、わたし本人じゃなくて鏡に映っているわたしをのぞきこんだ。
「似合ってるじゃん」
「そう?」
「女らしさ1割増し」
「それほめられてる気しない」
自然と顔が近づく形になる。
鏡の中でわたしたちの視線が絡み合う。
逃げたいけど、逃げたくないような、不思議な感覚におちいった。
先に動きを見せたのは、祐希の方だった。
「あーすげー疲れた」
肩に感じたのは、温かさと重み。くすぐったさ。
彼に寄りかかられた姿が鏡に映り、さすがにドキッとした。
「あの、ありがとう。ピアス」
「ん」
「祐希?」
「……眠い」
「ええっ!?」
彼はわたしの肩をすり抜け、ばたりとベッドに倒れ込む。
ゆっくりまぶたが閉じられる。
マジ寝に入りそうだ。わたしヒマになるんですけど!
仕方なくラインでも見ようかと、机に置きっぱのスマホに左手を伸ばす。
しかし、ストップがかけられた。
「未織」
名前が呼ばれると同時に、後ろから右手を引っ張られた。