さようなら、ディスタンス。



「え!? なに?」



寝っ転がったまま。まぶたが3割閉じられたまま。


だけど、祐希の視線は確実にわたしへと向けられている。


どことなく色気を帯びていて心がうずく。



「昼寝しよ」


「ちょっ」



さすがにこれはヤバい! と思い、つかまれた手をぶんと上下に降った。


いとも簡単に外れた。拍子抜けするほど。



あっけにとられている間に、祐希はかすれた声で「じゃーおやすみ」と言い、ごろんと逆向きに寝返りを打った。



「……あの」



外からセミの鳴き声が聞こえてくる。


一気に空気が日常へと戻ったのに、わたしの心臓はバクバクと騒がしい。



どうしてわたしだけがこんなにテンパってるんだ?


祐希は今の状況、なんとも思っていないの?


っていうか、本当に寝ちゃうの?



ベッドに乗り、目を閉じている彼をのぞきこんだ。



左耳のピアスを思いっきりひっぱってやりたい衝動にかられたけれど、寝顔がかわいかったからやめておいた。


その代わりスペースがあったため、彼の隣にごろんと寝転がった。


くっついていないのに、かすかな温もりを感じる。まだ鼓動がうるさい。


あのまま彼の力に身を任せていたら、どうなっていたんだろう。



テーブルでスマホが振動している。



友達かな? 光くんかな? 



今は見なくていいや。



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