さようなら、ディスタンス。
雑居ビルの地下にあるライブハウス内に、光くんの歌声が響いている。
彼のライブに来たのは、5月の東京初ライブ以来。
あの時は彼の友達らしき人しかいなかったのに、今日は派手系から地味系までたくさんの男女が詰め込まれていた。
その誰もが、真剣に彼のステージと向き合って、思い思いに音を楽しんでいた。
バンドメンバーと息を合わせながら、光くんはギターをかき鳴らし歌っている。
初めて聴く曲と地元でもやっていた曲が交互に続く。
ステージとフロアが盛り上がる中、後ろの方で1人棒立ち状態のわたし。
ライブに集中できるような気分ではないし、音酔いと人酔いのせいで具合も悪くなっていた。
「今日はありがとうございました。あの……最後の曲の前に、少しだけしゃべらせてください」
だけど、ライブの終盤。
全神経が光くんにひきつけられた。
「おれは今年の春、東北のくそ田舎から東京に出てきました」
へぇ~、とか、くそっていうな~、とか。
お客さんから軽く声があがる。