さようなら、ディスタンス。
「東京来てからずっと、地元に残してきた大切な子のために曲を作っていました。どう表現したらその子に伝わるかばかり考えていました」
光くんのぼそぼそ声が、マイクとスピーカー越しにわたしの心へと侵入してくる。
どくん、どくん、と鼓動が激しくなる。
「やっと、その子に自信を持って聞いてもらいたい曲ができました。曲名は……」
静かなイントロから曲が始まった。
情感にあふれた音がお客さん、そしてわたしを包み込む。
フラグの通り、だった。
初めて彼の歌が心に落ちてきた。
音が多すぎて歌詞はとぎれとぎれにしか理解できない。
でも、理屈じゃなくて感覚だけで受け止められた。
心の奥底にある、自分も他人も触れられない部分が揺さぶられる。
得体のしれない感情が湧きあがってきて、涙があふれだす。
彼が作った『東京』は、すごく、いい曲だった。