さようなら、ディスタンス。
点滅
☆
打ち上げには出ずにすぐ帰ろうと思っていた。
しかし、先輩バンドによるテキーラショット祭に巻き込まれたため、こんな時間になってしまった。
夜は明けようとしていた。
道路の端に散乱するゴミ、明かりを失ったバーの看板、よろよろの客を見送る水商売らしき人たち。
朝日に照らされる新宿の街を抜け、オール明けらしき若者たちと同じ車両に乗った。
きっと彼女は寝ているんだろうな、もし起きたまま待っていたらどうしよう、どう謝ろう、なんてことを考えながら。
お詫びのデザートを買うためにコンビニに入った。
プリンを1つレジへ持っていったが、お金が足りなかった。
仕方なくATMへ。手数料がもったいないけど、お札をできる限りおろした。残高は2ケタ。絶賛金欠中。
学費と家賃は仕送り、それ以外は自分で。これが親から与えられた東京暮らしの条件。
背負ったギターがどんどん重くなる。まだ3分の1も払い終えていない中古のレスポールジュニア。来月のリボ払い、大丈夫だろうか。
コンビニを出ると、逆三角形に4の字の看板が日の光に照らされていた。
東京の隅にあるこのエリアには国道4号線が通っている。
ただ、同じ名前の道路とはいえ地元とは景色が全く違う。まわりには建物がひしめき合っていて窮屈だ。横ではなく縦に長い大型電気店の上に朝日がのぼっていた。
細い道に入り、しばらく進むと見える築30年のボロマンション。ここが今の僕の家。
外付けの階段を上り、自分の部屋へと急ぐ。
3階についた瞬間、プリン入りのコンビニ袋が、するりと指からこぼれ落ちた。
――え。ちょっと待って。何で!?
なぜか、部屋の中ではなく、ドアの前に彼女がいたから。
リュックを背負ったまま、体育座りをして顔を伏せていた。