さようなら、ディスタンス。

点滅








打ち上げには出ずにすぐ帰ろうと思っていた。


しかし、先輩バンドによるテキーラショット祭に巻き込まれたため、こんな時間になってしまった。



夜は明けようとしていた。


道路の端に散乱するゴミ、明かりを失ったバーの看板、よろよろの客を見送る水商売らしき人たち。


朝日に照らされる新宿の街を抜け、オール明けらしき若者たちと同じ車両に乗った。


きっと彼女は寝ているんだろうな、もし起きたまま待っていたらどうしよう、どう謝ろう、なんてことを考えながら。



お詫びのデザートを買うためにコンビニに入った。


プリンを1つレジへ持っていったが、お金が足りなかった。


仕方なくATMへ。手数料がもったいないけど、お札をできる限りおろした。残高は2ケタ。絶賛金欠中。


学費と家賃は仕送り、それ以外は自分で。これが親から与えられた東京暮らしの条件。


背負ったギターがどんどん重くなる。まだ3分の1も払い終えていない中古のレスポールジュニア。来月のリボ払い、大丈夫だろうか。



コンビニを出ると、逆三角形に4の字の看板が日の光に照らされていた。



東京の隅にあるこのエリアには国道4号線が通っている。


ただ、同じ名前の道路とはいえ地元とは景色が全く違う。まわりには建物がひしめき合っていて窮屈だ。横ではなく縦に長い大型電気店の上に朝日がのぼっていた。



細い道に入り、しばらく進むと見える築30年のボロマンション。ここが今の僕の家。


外付けの階段を上り、自分の部屋へと急ぐ。



3階についた瞬間、プリン入りのコンビニ袋が、するりと指からこぼれ落ちた。



――え。ちょっと待って。何で!?



なぜか、部屋の中ではなく、ドアの前に彼女がいたから。


リュックを背負ったまま、体育座りをして顔を伏せていた。


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