さようなら、ディスタンス。



チャイムを鳴らすと、何度か彼女が出迎えてくれた。



『えっと、紫音くんは……』


『お兄ちゃん今昼寝してますけど。起こしますか?』


『や、それは悪いなぁ。起きるまで待っててもいい?』


『いいっすよ。お菓子あるんで一緒に食べましょー』



彼女は親しみやすい雰囲気を持っていて、すぐ打ち解けることができた。


ついつい話が盛り上がり、コップと口元との距離をミスって自分の制服にジュースが垂れた。


うわ、ダサいな自分、と慌てる僕に、彼女はハンカチを差し出しこう言ってくれた。



『あはは! 光さんって意外とかわいいですね』



それからも、やたら用事を作って紫音くんの家に行きたがる僕。


きっと彼に僕の気持ちがバレていたのだと思う。



ある日、テスト勉強を紫音くん家でする約束をしたはずなのに、出迎えてくれたのは彼女だった。



『こんにちは。紫音くんは……』


『お兄ちゃんなら今出かけてますよ』


『あれ。おかしいな。家にいるってラインきたはず……』


『あの、もしかして光さんって、わたしに会いに来てますか?』


『…………』


『……とか言ってみちゃったりしてー。あははっ』



冗談ぽく彼女が吹っ掛けてきたから、


『そうだよ』


と本心を伝えた。



『え……。わたし、お兄ちゃんにそう言えって命令されて。うそ……待って。信じられない』



真っ赤になって照れた顔が可愛らしくて、ずっと僕のそばにいてほしいと思った。


そのまま玄関で、彼女を思いっきり抱きしめてしまった。



ちなみに紫音くんは後ろから僕たちの様子をのぞいてたらしい。


はめられた! と思ったが、ありがたい仕込みをしてくれたことには感謝しかない。



それから未織との幸せな日々が始まった。


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