さようなら、ディスタンス。
ケンカに勝ったことがない、習い事は続かない、運動はできない、勉強はそこそこ。
中学の頃、自分にはとりえがないとふて腐れていた時に支えてくれたのがロックだった。
曲を作り歌を歌い、自分を表現する。
僕にしか作れないものがあることが嬉しくて、音楽にのめりこんだ。
結局のところは、いくらいい曲を作ったって、自分がダメな人間であることに変わりはない。
バンドは好きだけど彼氏としては無理、と言われフラれたこともある。
彼女――未織と付き合い始めてからも、待ち合わせに遅れたり、誕生日を忘れたり、いろいろやらかした。
その度に彼女に怒られてはいたけど、友達とトラブルを起こしへこんでいた僕にこう声をかけてくれた。
『光くんはそのままでいいよ。逆にわたしが守ってあげたくなっちゃう』
音楽をしていなければ、ただのダメ人間。みんな音楽をしている僕にしか興味を持ってくれない。
そんな中で、彼女がそのままの僕を認めてくれたことが嬉しかった。
ただ――
『ライブ、どうだった?』
『すごかったよ。みんな騒いでたし、女の子全員光くんに恋してるみたいだった』
そこじゃないんだよ。きみがどう思ったかが知りたいんだよ。
一番熱中していること。将来をささげたいと思ったこと。
そこに対しては、彼女は目を向けてくれない。
どうしたら、僕を認めてくれる彼女に、僕の音楽を認めてもらえるのだろう。
気がついたら、彼女を想いながら曲を作るようになっていた。