さようなら、ディスタンス。
☆
――ドンドンドンドン!
チャイムを無視して居留守を使ったはずなのに、ドアが誰かに叩かれ続けている。なにかの集金かな。
まあいいや。黙っていればそのうち去るだろう。
――ドドッドドドドドッドドド!
うるさいな。早く去ってくれよ。今家には誰もいないんだよ。
――ドンタンドドタンドンタンドドタン!
しつこいな。しかもノックでエイトビートを刻むんじゃない。
――ドンドンタン! ドンドンタン!
なんでウィーウィルロックユーなんだよ。
――ドコドコドコドコドコドコドコドーンドーンドンドーン!
紅を叩くな!
「はぁ……」
さすがにこれ以上やられると近所迷惑だ。ここを追い出されるわけにはいかない。
仕方なくよろよろと立ち上がり、散らかりっぱなしの部屋を抜け、ドアへと向かった。
スコープから外をのぞく。指で塞がれているらしく、真黒だった。
「あのさぁ、うるさい……」
「よかった生きてる! じゃねぇ、お前スタ練飛ばすなよ!」
薄い鉄製のドアを空けた瞬間なだれこんできたのは、同じバンドでドラムをしている卓くんだった。