さようなら、ディスタンス。
シャツやジーパン、カップラーメンの器やペットボトルが敷き詰められた部屋を見て、卓くんはため息をついた。
「お前分かりやすっ。何。フラれた? 未織ちゃんに」
「…………」
まだ未織からの言葉を受け入れられない僕は、ベッドに腰かけうなだれることしかできない。
『光くんは何も悪くないの……ごめんなさい』
あの後、彼女はそう言い残し去ってしまった。
呆然と立ち尽くすことしかできなかった自分が、今となっては恨めしい。
卓くんはゴミ袋片手に部屋を片付けてくれている。
ペットボトルと一緒に靴下も袋に入れられているが、止める気力がなかった。
「それより、お前知ってる? 今、マジすげーよ!」
突然、卓くんのテンションがあがった。
「なんのこと?」
「『東京』だよ! 再生回数やばいし、フォローも超増えてるの。これバズるんでね?」
自然と口が半開きになる。全然頭の回転が追い付かない。
『東京』か……。
ぼんやり脳裏に浮かんだのは、大勢のお客さんの奥に見つけた彼女の姿。
暗くて表情は見えなかったけど、揺れるフロアに対し1人棒立ちの状態。
いつも通りの光景だった。