さようなら、ディスタンス。
彼女という存在に頼らなくてもやっていける強い自分になりたい。バンドマンとしての自分を彼女に認めてもらいたい。
そう思い東京に出てきたはずなのに。どこで間違えてしまったのだろう。
ベッドに転がっていると、台所からしょうゆと油のいい匂いが漂ってきた。
「あ。さっきそこのドア叩いた時、いいリズムのやつあったべ? ドドッドドドドドッドドってやつ。次の曲で使えるかも」
特製もやし炒めを作ってくれた卓くんは、そう言ってニッコリ笑った。
話題を変えてくれたのは、きっと無意識だ。いい人だ。
しかも、卓くんは地元の言葉遣いのままでいてくれる。方言出した方が、逆にモテるんだとか。
ただ――
『無事に地元帰れた?』既読
『話したいんだけど』既読
『電話していい?』未読
『夏休み地元帰るから』未読
『未織に会いたい』未読
東京という街にすぐ適応できた卓くんとは違い、僕の心はまだ地元――彼女のもとにある。