さようなら、ディスタンス。
屈折
東京に来てからのほとんどが、曲作りとスタジオ練習とライブとバイト。それで精一杯。大学にはほとんど行っていなかった。
『ちゃんとラインできる?』
『するよ』
『電話も?』
『頑張る』
地元を出る時に彼女とした約束も、疲れと忙しさのせいで守ることができなかった。
自分のダメな部分を直すのは難しい。改善する努力はするから、もう一度やり直すことはできないだろうか。
☆
「はい、時間です。ペンを置いてくださーい」
チャイムが鳴り、答案用紙が回収される。
今は大学の試験期間。僕は取れそうなもの5つだけをピックアップしてのぞむことにした。
きっと今の試験は、ぎりぎりいけたはず。
「なーなーどうだった? 俺たぶん単位取れたわ」
「俺は余裕。ってかあの教授、出席半分以下の人は全員落とすらしいよ」
「まじ? 俺休んだの3回くらいかなぁ。よっしゃいける!」
――え、まじすか?
同じ試験を受けた人たちの会話が耳に入り、さーっと血の気が引いた。
全15回の講義中、僕が出席したのは最初と最後の2回だけ。
僕にはそもそも試験を受ける権利がなかったらしい。
7:10
未織『おはよう』
8:20
未織『光くん起きてる? 今日朝一授業だよね?』
16:15
未織『おーいw』
18:20
『今起きた』
18:22
未織『大学は!?ヽ(`Д´)ノ』
コーヒー缶片手にスマホ画面を眺める。
彼女からのメッセージは、リアルタイムだとおせっかいに感じることもあったけど、改めて読み返すと愛おしいものに思えた。
さすがにやばいな。
残っているのは比較文化論と現代史と英語と……ああ、どれもほとんど勉強していない。
親にバレたら仕送り減か、最悪、地元への強制送還もありえる。
未織の言う通り、もっとまじめに大学行っとけば良かった、と今さら後悔中。