さようなら、ディスタンス。




「もうおれダメかもしれない。いや、もうダメかも。今までありがとう……」



ジョッキ片手によろりと頭を下げる僕。



「諦めるのはえーよ。まだ大学生活8分の1~!」


「いや、先輩が言ってたけど、3年になったら就活で授業どころじゃないらしいよ」


「光くんは進路決まってるから大丈夫っしょ。よっ、未来のミュージシャン!」


「確かに~。応援してるよー!」



慰めてくれたのは、数少ない大学の友達、クミ子とピロくん。


この2人がノート貸してくれてレポートの手伝いをしてくれたおかげで、なんとか単位ゼロはまぬがれそうだ。



「それよりこの前のライブ、めちゃくちゃよかったー。私泣きそうになったよ」


「特に最後の曲、『東京』! 俺も田舎出身だからかなぁ、超感動したわ~! お前本当すげーよな」


「あー。うん。ありがとう」



この2人組は音楽好き同士。単位のお礼は音楽で返してくれればオッケーと言ってくれた。


自分が表現したものを褒められれば、素直に嬉しい。


彼女を失った傷は全然癒えてはいないものの、僕を応援してくれる人のためにも、いい音楽を作り続けなければいけない。


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