さようなら、ディスタンス。



その日は早めに解散になったため、家で久々にギターを触ることにした。


卓くんのおかげで若干片付いた自分の部屋。


近所迷惑にならないよう、ギターの弦を指ではじき小さめの音を出す。



奏でたのは『東京』のイントロ。


初めて未織への想いをストレートに表現した曲。



東京は住んでみると、人であふれているくせに、常に孤独がまとわりついてくる、息苦しい街だった。



隣の部屋の住人の顔は知らない。


大学に行っても、ほとんどが他人。


友達に会うには連絡を取り合わなければいけない。



そんな中、彼女を想えば、不思議と自分が1人じゃないと思えた。



地元にいた頃、彼女とすごした幸せな記憶。


抱きしめた時の、愛おしさと安心感。



『光くんはそのままでいいよ。逆にわたしが守ってあげたくなっちゃう』



情けない僕を抱擁してくれるような強さ。



音楽を失ったとしても、きっと彼女だけは僕から離れないでいてくれる。


ダメな僕を見捨てないで、かわいいって笑ってくれる。

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