さようなら、ディスタンス。
☆
電話がつながったため、普段よりワントーン高い声を出した。
「はい。今、自分、家庭教師先を探してまして、もしお子さんの勉強で心配なことなどございましたら……」
『何で家の電話番号知ってるの? 家に子どもがいるのもどうして知ってるの?』
「あ……その……」
こう言われた時は、どう切り返すか。
えーと。あれ。どうするんだっけ。
何度かこのパターンには応じてきたはずなのに、言葉が出てこない。
『どうせ怪しい業者でしょ? 本当迷惑。二度と電話してこないで!』
ガチャプツッ!! ツーツー……。
そうですね。本当に僕は怪しい業者なのかもしれないですね。
でもそれだけでどうして怒鳴られなきゃいけないんですかね。迷惑なら電話でなきゃいいのに。今どき家電にかかってくる電話なんてセールスばっかりでしょうが。
まあ、僕なんてこの世界で迷惑な存在。いらない存在だよ。どうせ。
「はぁ……」
いつも心を無にして挑んできた、高時給のテレアポバイト。
なぜか今日は心が痛んで、集中できない。