さようなら、ディスタンス。
「杉原くん、そろそろアポ取ってほしいな~」
一方通行の営業トークが響く中、社員さんに肩を叩かれる。
「すみません。今日架電のエリア、みんな厳しくて……」
「今、期末テスト後で成績落ちてる生徒さん多いんだから、すぐそこにトーク持っていかないと。ホント、頼むよ」
「はい……すみません」
目の奥が笑っていない社員さんに頭を下げた。
この後の流れは知っている。
社員さんはアポが取れないバイトのせいで、上司に頭を下げ、その上司は、社長に頭を下げる。
次は社長からのプレッシャーが上司へ、上司から社員へ、社員からバイトへ。この繰り返し。
まわりを見まわす。バイトたちはみんな時給のために必死に電話をかけている。
もしもし、お子さんの成績、どうですか?
またお電話しますね、いつでもご相談ください。
トーンの高い声がまざりあって気持ちが悪い。罵声を浴びてまでお金がほしいのだろうか。
僕は、もうだめだ。向いていないんだ。