さようなら、ディスタンス。




「え。バイト? 今のお前には紹介したくないわ。絶対バックレるべ?」


「そろそろお金がやばい。最近もやししか食べてない」


「実家も厳しいの? 親からは借りれない?」


「いやぁ家には連絡できないよ。無理行って東京来させてもらったんだし」



スタジオ練習が再開し、久々にバンドメンバー3人で音を合わせた。


今は、スタジオ後のミーティングinファミレス。


歌詞は飛ばすわ、ギターの弦は切るわで、全然調子が出ない僕。


そんな僕を見かねたのか、ベースの湯朝さんがご飯をおごってくれることになった。



みんな稼いだお金をバンドに使っている状態。絶賛貧乏生活中。


お腹が空いたため、一番高いステーキセットを頼むと、湯朝さんは一瞬ビビった顔をしたものの、

「食え食え。お前に倒れられたら困るから」と言ってくれた。



湯朝さんは1つ年上のフリーター。バイトよりスロットの方で生計を立てているらしい。


僕もギャンブル始めようかな、とつぶやくと、お前は向いてないと速攻で却下された。



ご飯を食べてからも、ドリンクバーでねばり3人で時間を過ごしていた。


話す内容は、ライブのこと、曲のこと、集客のこと、レコーディングのこと、可愛い女子バンドのこととか、いろいろ。



「光、最近、曲作りはどう?」


「んだんだ。『東京』の勢いで、もう1曲新しいの作るべ~!」



バンドが勢いに乗っているからか、卓くんも湯朝さんもやる気に満ち溢れている。



新曲か。確かにそろそろ作らなきゃな。



「そうだね。頑張る」



そう答えたものの、未織と別れてから新しい曲はできていない。作る気に全くなれなかった。



『未織、こういう曲はどう?』


『あーいいんじゃない?』


『適当に言ってるでしょ』


『そんなことないよ~それよりこのチップス美味しい~もぐもぐ』



ふとした時によみがえる未織との記憶。


フラれる前は思い出すことで力がわいてきたのに、今では苦しさが増すばかり。


< 75 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop