さようなら、ディスタンス。
「え。バイト? 今のお前には紹介したくないわ。絶対バックレるべ?」
「そろそろお金がやばい。最近もやししか食べてない」
「実家も厳しいの? 親からは借りれない?」
「いやぁ家には連絡できないよ。無理行って東京来させてもらったんだし」
スタジオ練習が再開し、久々にバンドメンバー3人で音を合わせた。
今は、スタジオ後のミーティングinファミレス。
歌詞は飛ばすわ、ギターの弦は切るわで、全然調子が出ない僕。
そんな僕を見かねたのか、ベースの湯朝さんがご飯をおごってくれることになった。
みんな稼いだお金をバンドに使っている状態。絶賛貧乏生活中。
お腹が空いたため、一番高いステーキセットを頼むと、湯朝さんは一瞬ビビった顔をしたものの、
「食え食え。お前に倒れられたら困るから」と言ってくれた。
湯朝さんは1つ年上のフリーター。バイトよりスロットの方で生計を立てているらしい。
僕もギャンブル始めようかな、とつぶやくと、お前は向いてないと速攻で却下された。
ご飯を食べてからも、ドリンクバーでねばり3人で時間を過ごしていた。
話す内容は、ライブのこと、曲のこと、集客のこと、レコーディングのこと、可愛い女子バンドのこととか、いろいろ。
「光、最近、曲作りはどう?」
「んだんだ。『東京』の勢いで、もう1曲新しいの作るべ~!」
バンドが勢いに乗っているからか、卓くんも湯朝さんもやる気に満ち溢れている。
新曲か。確かにそろそろ作らなきゃな。
「そうだね。頑張る」
そう答えたものの、未織と別れてから新しい曲はできていない。作る気に全くなれなかった。
『未織、こういう曲はどう?』
『あーいいんじゃない?』
『適当に言ってるでしょ』
『そんなことないよ~それよりこのチップス美味しい~もぐもぐ』
ふとした時によみがえる未織との記憶。
フラれる前は思い出すことで力がわいてきたのに、今では苦しさが増すばかり。