さようなら、ディスタンス。
「あの、Youthの光さんですよね?」
トイレから戻る途中、突然、見知らぬ女の子に話しかけられた。
Youthとは僕たちのバンド名。ソニックユースというバンドのファンである湯朝さんが命名した。
「あ、そうです」
「やっぱり! わたし友達に連れられて、この前のライブ行ったんですよ! めちゃくちゃ良かったです~!」
びっくりしたけど、こうやって声をかけてもらえるのは嬉しい。
この広い東京で。何百、何千ものバンドがただよっている中で。
僕のバンドの存在を知ってくれて、ライブにも来てくれる。奇跡的なことだと思う。
「本当? ありがとう」
「特に最後の曲がヤバかったです! あ、 MCで言ってた『地元に残してきた大切な子』ってどんな子なんですか~? その子が超うらやましい〜」
「え……」
クミ子とピロくんもだけど、みんなあのMCのことが気になっているのか……。
言わなきゃよかったと一瞬後悔したけれど。
「すごくいい子だよ。僕にはもったいないくらいの」
そう答え、頬と口角を軽く上げ、やわらかく目を細めた。
「わ~! あんな素敵な曲捧げられるくらいですもんね。そりゃそうですよね。あ、これからも応援してます!」
僕の笑顔と回答に満足したのか、彼女は頬を赤らめ、嬉しそうに去っていった。
まあ、結局、未織におれの音楽を認めてもらうことはなかったし、彼氏としてもNGを出された、というオチ。