さようなら、ディスタンス。
麻里奈は同じ学区出身で、クラスが一緒になったり離れたりを繰り返した。
僕は、自分に欠けているものを持っている麻里奈にずっと憧れていた。
だからこそ、彼女にふさわしいのは僕ではないことを知っている。
ただ、失恋したばかりの僕にとって、麻里奈の気持ちは嬉しいものだった。
「麻里奈」
「ん……?」
彼女を抱きしめ返す。
思った以上に細くてびっくりした。
「麻里奈ほどのいい女が、俺みたいなしょーもない男に抱かれちゃだめだよ」
そう囁き、頭を優しく撫でてから。
狭い肩に手をかけ、彼女の体をゆっくり剥がした。
「なにそれ。意味わかんない」
視線をそらし、麻里奈はぼそりとつぶやく。
綺麗にカールされたまつ毛。なめらかな肌。潤いを失わない唇。ほどよく乱れた髪の毛。
素の表情になっても、美しさは変わらない。
そんな彼女を見つめながら、僕は話を始めた。
「あのさ、麻里奈は覚えてる? 小3くらいの時の肝試し大会のこと」
「え……光とペア組んだやつ?」
「うん」
それは、今でも鮮明に思い出せる麻里奈との記憶。
小学生のある年、地域主催の夕涼みイベントで肝試し大会が開催された。
ただでさえ田舎の夜の闇は怖いものなのに。道中には怖さを増す仕掛けがたくさん潜んでいた。
「おれ、怖くて途中で動けなくなったじゃん」
「そうだったね」
「あの時、麻里奈も手震えてたのに、懸命におれのこと引っ張って前に進んでくれた」
「…………」
お化け役におどかされ、半泣き状態の僕。
こ、こんなの全然怖くないよ、と強がる麻里奈の姿。
本当は麻里奈も怖かったはずなのに、弱い姿を見せずに僕を引っ張ってくれた。
きっと彼女はあの頃と変わっていない。