さようなら、ディスタンス。



麻里奈は同じ学区出身で、クラスが一緒になったり離れたりを繰り返した。



僕は、自分に欠けているものを持っている麻里奈にずっと憧れていた。


だからこそ、彼女にふさわしいのは僕ではないことを知っている。



ただ、失恋したばかりの僕にとって、麻里奈の気持ちは嬉しいものだった。



「麻里奈」


「ん……?」



彼女を抱きしめ返す。


思った以上に細くてびっくりした。



「麻里奈ほどのいい女が、俺みたいなしょーもない男に抱かれちゃだめだよ」



そう囁き、頭を優しく撫でてから。


狭い肩に手をかけ、彼女の体をゆっくり剥がした。



「なにそれ。意味わかんない」



視線をそらし、麻里奈はぼそりとつぶやく。



綺麗にカールされたまつ毛。なめらかな肌。潤いを失わない唇。ほどよく乱れた髪の毛。


素の表情になっても、美しさは変わらない。



そんな彼女を見つめながら、僕は話を始めた。



「あのさ、麻里奈は覚えてる? 小3くらいの時の肝試し大会のこと」


「え……光とペア組んだやつ?」


「うん」



それは、今でも鮮明に思い出せる麻里奈との記憶。



小学生のある年、地域主催の夕涼みイベントで肝試し大会が開催された。


ただでさえ田舎の夜の闇は怖いものなのに。道中には怖さを増す仕掛けがたくさん潜んでいた。



「おれ、怖くて途中で動けなくなったじゃん」


「そうだったね」


「あの時、麻里奈も手震えてたのに、懸命におれのこと引っ張って前に進んでくれた」


「…………」



お化け役におどかされ、半泣き状態の僕。


こ、こんなの全然怖くないよ、と強がる麻里奈の姿。



本当は麻里奈も怖かったはずなのに、弱い姿を見せずに僕を引っ張ってくれた。


きっと彼女はあの頃と変わっていない。

< 87 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop