さようなら、ディスタンス。
「無理しなくていいよ、弱いとこ見せていいんだよ、って言ってくれるいい男が絶対いる」
シャドウと厚いまつ毛で飾られた、彼女の大きな目を見据えた。
「でも……麻里奈の、自分を強く見せようと懸命に頑張るとこ、おれはかっこいいと思うよ」
僕は悩んだり、凹んだりする姿を隠し切れない弱い人間だ。
だめだと分かっているものの、人に心配をかけてばかり。
だから、自分とは正反対の麻里奈に憧れていた。
麻里奈は穏やかな川の流れを眺め、あーあ、と伸びをした。
伸ばされた細い腕の先。飾られたネイルが街灯の光に反射している。
ギターのせいで皮が厚く深爪になっている僕の指と比べて、彼女は先端まで綺麗にケアされていた。
「なーんだ。光って、意外と女の振り方上手いんだね」
彼女から発せられたのは、いじけた口調ながらも、かすかに揺らいだ声。
向けられた流し目も、涙で潤んでいるように見えた。
しかし、こぼれそうになった瞬間、お尻を叩きながらぱっと立ち上がった。
「じゃあ解散しよっか。明日のライブ楽しみにしてるね!」
たぶん泣く姿を見られたくないのだと思う。
無理やり普段のテンションに戻すところが、麻里奈らしいと思った。
じゃあね、と別れたが、すぐ麻里奈の大声に呼び止められた。
「光ー。ちょっと待って! 駅そっちじゃないよー」
「あれ? どっち?」
「あははっ、しょうがないなぁ。私が連れてってあげる」
麻里奈は笑いながら僕の手を引き、駅まで連れて行ってくれた。