さようなら、ディスタンス。

逆光






大阪でのライブはネットでの前評判が良かったせいか、思った以上にたくさんのお客さんが来てくれた。



失恋の痛みなんかより、僕らを楽しみに来てくれた人たちの想いに応えたい。


その気持ちを胸に、『東京』もいい演奏で伝えることができた。



ライブ後、「最高だったよー!」と言って麻里奈が駆け寄ってきた。



薄暗くて汚い、地下のライブハウス。


普通の女子だと入りにくい空間かもしれないのに、1人で来てくれたらしい。



麻里奈はライブの感想を語った後、


「実は昨日。私、店出てからのこと全然覚えてなくて……」


と言い、苦笑いを浮かべた。



すぐに彼女の意図に気がついたけど、「まじで?」と驚いたふりをしておく。



「もしかしたら私、何かやらかしたかもしんないけど。ごめんっ、全部忘れてくれる?」



いつもの華やかな笑顔で、そうお願いされたから、


僕も自然と笑顔になり、「わかった」と彼女に伝えた。



そういえば、なぜ麻里奈は僕が未織と別れたのを知っていたんだろう。


麻里奈も麻里奈で地元で長く付き合ってた彼氏がいたような、別れたような。



引っかかることはあるけど。まあいっか。


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