さようなら、ディスタンス。
「へぇ、そうなんだ。仲いいんだね」
平常心を保ったが、さすがに心がざわついた。
こいつに触られる未織の様子をリアルに想像してしまったから。
「あいつ結構すごいっすよね。彼氏に会う前の日に浮気するとか」
「え?」
「あれ。未織に聞いてないんすか? 俺、ここで未織とキスしましたよ」
衝撃のあまり言葉を失った。
そんな僕をよそに、彼は余裕そうな態度で話をつづけた。
「俺のこと殴ってもいいっすよ。一応、光さんには悪いことしたと思ってるんで」
嘘をついているようには見えなかった。
信じるしかなかったのかもしれない。
その言葉を理解した瞬間、ばらけていた点がつながり、線になったから。
――ああ、そういうことだったのか。
『光くん……わたしと別れてください』
『ごめんなさい。光くんは何も悪くないの』
すでに未織の心は僕から離れていたのか。
遠くにいる僕なんかじゃなくて、近くにいる男を選んだのか。
『光さんって意外とかわいいですね』
『光くんはそのままでいいよ』
『わたしが好きなのは光くんだよ』
そう言ってどんな僕でも認めてくれていたはずなのに。
僕の知らない場所で、彼女は僕を裏切っていたのか。
あんなに愛し合っていたのに。離れれば、所詮そんなもんか。