さようなら、ディスタンス。
込み上げたのは、やるせなさや怒り、ではなかった。むしろ、いろんな感情を通り越して、わらけてきた。
地元の人は地元の人同士で勝手に仲良くやればいい。
「そっか。あははっ」
口元に手を当て、笑い声を漏らすと、
「何が可笑しいんすか」と、さすがの彼も不服そうな顔で僕をにらんだ。
「あのさ、おれが何で東京行ったか、さっき聞いてきたじゃん」
手すりに肘を置き、景色の奥に広がる星空を眺めた。
「はあ」
「この4号線って、どこまで続いてると思う?」
「東京っすよね」
「うん。でもここから500kmも先の世界なんて全然イメージつかないでしょ。自分で確かめてみたくならない?」
「……よく分かんないっすけど」
彼は首をかしげた。手にした袋がかさりと揺れる。
「同じような景色の毎日から抜け出したかったんだよ。おれは」
電車の路線図を眺めると、終点には何があるんだろう、と思いを巡らせ、行ってみたい衝動に駆られる時がある。
飽きるほど毎日この国道を通ってきたからこそ、この先に何があるのか、ずっと気になっていた。
未織のことは好きだった。でも、いつまでも未織に頼ったままじゃいけないとも思っていた。
だから、この街を抜け出し、新しい世界に飛び込んだ。
「東京、どうっすか」
飛び込んだ先は、排気ガスにまみれているし、人が溢れすぎていて孤独を感じるけれど、
自分で選ぶ自由がある。
「思ったよりも、いいとこだよ」
僕がそう答えると、彼は「へー」と言い、アスファルトの先を眺めた。
足元から車のライトに照らされる。
薄い光を浴びた彼の顔は、かつての自分と重なって見えた。
別れ際、いつ帰るんすか、と聞かれたため、明日の夜、と答えた。
お盆の時期なのに運よく夜行バスが空いていたため、地元を満喫することなく東京へ帰ることにした。