さようなら、ディスタンス。
ロータリーに、夜行バスの臨時便が停まっている。
駅前の景色をスマホで撮影してから、僕も乗る準備をした。
列に並んでいるのは、同じくらいの年代の若者たち。
夜行バスは乗車時間が長い分、新幹線代の半分で移動できるいいシステムだ。
荷物を預け、チケットを見せ、バスの階段に足をかける。
「光くん!」
突然、誰かに名前を呼ばれた。
心をぐちゃぐちゃにされるほどの懐かい声で。
まさか……。
いや、この声は本物だ。間違うわけがない。
「光くん!」
もう一度、その声に包まれた。
心に熱いものが湧きあがってくる。同時に胸がちくりと痛む。
感情がこぼれおちないよう、ゆっくり振り返る。
視界に入ったのは――
僕がこの街で恋した人。僕自身を認めてくれた人。
もう二度と会えないと思っていた人。
彼女は、走ってきたのか胸に手を当て息を整えていた。
前よりも大人っぽく見えるのはきっと、乱れた髪の毛の隙間、耳元でピアスが光っていたから。
「……未織。なんで?」
夢ではないらしい。
理由を言わずに僕をフった元彼女――未織が目の前にいた。