紙切れ一枚の約束
紙切れ一枚~婚活

「婚活」

その日は夏至だった。けれど、あいにくの雨。一年の中でいちばん日の長い一日を、しとしとと降る雨音を聞きながら過ごすのも悪くはないけれど、正直言って今日だけは晴れてほしかった。
「お見合い」の日だったから。

私は、緊張がほどけていくのを感じながら、学生時代からいきつけの小さなカフェで一息ついた。ほっと溜息をつくだけで、少し口元がゆるんだ。
今日は「面接」だった。いわゆる婚活組である35歳の私は、自分に自信がなくて、この日もどんなに不安に思い、悪い方へとばかり考えたかしれない。仕事はできるけれど、男性とのお付き合いには疎いことこの上ないのだ。合コンにも行ったことがないし、誘われたこともなかった。地味で目立たない、教室のはしっこで本を読むクラスメート。けれど、その子がどんな顔だったのか、何が好きだったのか、いやそもそも名前はなんといったのか……。そんな、同窓会で話題にも上らない存在。それがまさに私だった。
真面目過ぎて、物事を固く真剣に考えすぎてしまい、融通が利かなくて頑固者。だから仕事はどんどん任されて、今では大手の教材開発会社で何人もの部下を束ねるキャリアウーマンだが、誰かと特別に親しくなるとか、恋をするとか、そういったことは全くない。

面白みのない女だった。だった、というのは、今日から私は変わったからだ。
交際を、申し込まれた。初めての面接はうまくいったのだ。

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