千一夜物語
風呂から上がると、庭では宴会が催されていた。

驚くべきなのは、山のように大きな赤鬼と青鬼が居て、そんな巨体の彼らが正座をして畏まっていたからだ。


「赤、青、楽にしろ。あとお前たち用に特大な盃と大量の酒を用意してやったぞ。一緒に飲もう」


「黎様、よろしいんですか?俺たちその…見回りしかお手伝いができなくて」


「有事の際は大いに役に立ってもらうから気にするな。その足を崩さないとその腰布を剥ぎ取って全裸にさせてやる」


「ひええっ」


わははっと歓声が沸き、立ち尽くしている澪に気付いた黎は、とんとんと隣を指で叩いて澪を座らせた。

皆が一斉に澪を見たためつのかくしをさらに深く被った澪を気遣った黎は、一応皆に説明をした。


「何かの手違いで俺に嫁に出されてしまったんだ。名を澪と言う。短期間の滞在になると思うが、粗相のないようにしろ」


「ほお、黎様の嫁とな!顔はよく分らんがきっと美人なんでしょうね。ほれ澪様も一献」


「あ、ありがとう」


黎から盃を受け取った澪は、ちらりと黎の顔を盗み見て目が合うと、すぐ俯いて震える手を叱咤した。

鬼族の例にもれず酒好きで強く、一気飲みすると歓声が沸いて、黎が呼び寄せた伊能という男が用意した酒の肴を食べながら彼らが楽しそうにしているのを見ていた。


「黒縫どうしよう…やっぱりここって居心地が良すぎるかも」


『私もそう思います。澪様、しばらくの間ご厄介になりましょう。黎様の人となりをよく知るべきです」


「うん…分かった」


黎が毛並みがつやつやになった黒縫の頭を撫でると、黒縫は黎の膝に前足をかけて座り、陽気な集団を見て楽しそうにしていた。


――もっとよく知ってみよう。

頑なだった心は徐々に絆されて、黎をまっすぐ見つめた。
< 105 / 296 >

この作品をシェア

pagetop