千一夜物語
翌日、黎は縁側でぼんやりしながら朝日を見上げていた。


「牙、数日とは何日空ければいいんだ」


「二、三日じゃね?そろそろ許してくれてると思うし、行ってもいいんじゃねえかなー」


黎が小さなため息をついた。

同じく縁側で気が張る必要がないと判断してうとうとしている黒縫の身体を撫でてやっていた澪は、黎が誰かに会いたがっている様子にそわそわしていた。

とても好奇心が強く、屋敷から出てはいけないと言われていてもこっそり抜け出してしまうほどじゃじゃ馬気質なことは自身でもよく理解しているため、話を訊きたくて黎が気付きやしないかと穴が空くほど見つめていた。


「…なんだ、どうした?」


「なんのお話かなあって思って」


「…知人に数日会わないと言われたから、数日とは何日のことだと思ったんだ」


「喧嘩したの?」


「…まあそんなところだな。牙、少し眠る。何かあったら起こせ」


「りょーかい」


黎が自室に消えて行くと、澪は黎と一番仲の良い牙を今度はじっと見つめてさらに説明を求めた。

…この同い年位の娘を攫って来ると言っていたことを知っている牙は、それでも事情を話してはならないと言われているため、頬をかきながらあぐらをかいた。


「黎様に興味あんのか?」


「えっ?う、うん…ちょっとは。だってとても頼れそうな方だから…」


「まあそれはそうだよな!俺も黎様に助けられてからずっと一緒に居るけど、嫌味なとことか全然ないし、すんげえ頼れるんだぜ!」


自信満々に主を褒め称える牙だったが、澪が何を訊きたがっているのかを知っていたが、敢えてはぐらかしていた.。


「それであの、さっきのお話…」


「んー、まあ俺から話すもあれだけど…。気に入ってる女が居てさ。その女につれなくされてちょっと落ち込んでるってとこかな」


――あの黎を袖にする女?

ますます興味が湧いてきたが、それと同時になんだか胸が少しちくりとした気がした。


「気に入ってるっていうのは…」


「これ以上は話せねえ。訊きたいなら黎様に直接訊いてくれ」


「へえ…ふうん…」


半分膝に上がってうとうとしていた黒縫が顔を上げた。


好奇心の方が強いが、あの黎を袖にする女が居るという事実に澪は驚き、黎が起きたら質問攻めにしてやろうと決めてわくわくしていた。
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