千一夜物語
離したくはない
強大な妖気が黎を包み込み、それまで薄ら笑いを浮かべていた短髪で目の大きな男――悪路王は、笑みを消して目を細めた。
「旦那…あんた鬼頭の当主だろ?なんで人に加担しているんだ?あんた人を食う側だろ?」
「…俺は人と妖の領域を多分に侵してはならないと思っている。最初に侵したのはお前だ。だから神羅が起った。お前がこれ以上人を襲わなければ丸く収まる」
「収まるわけないだろ。人は食い物だ。いい声を奏でて俺たちに食われるだけの存在だろ」
「違う。悪路王、お前は何故人を襲い始めた?そんな噂は今まで耳に入って来なかったぞ」
黎は鳥居の傍に気絶した神羅の身体を横たえさせて、悪路王に話しかけながら距離を縮めていた。
そのぎらぎらした目つきと吹き出る妖気に牛鬼が怯えてまごまごすると、悪路王は牛鬼の頭を拳で強く殴って跨った。
「ひょんなことで人の血肉を味わっちまったんだ。それからはもう人の虜よ。食っても食っても腹が満たされない。旦那もその女を食いたくて傍に居るんだろ?裏切るつもりなんだろ?」
「…」
話している間にも神羅の体内には毒が回り続けている。
このままではすぐ心臓が止まってしまい、二度と会えなくなる――
――黎は抜いた刀の切っ先を上空に向けた。
すると轟音と共にその切っ先に雷が落ちて、帯電してぱりぱりと音を立てて光った。
「あれは俺の獲物なんだ。お前が先なのは分かっているが、譲るつもりはない。毒なんか使うと…不味くなるだろうが」
「ああ!やっぱり食うつもりだったのか!旦那、俺と同じじゃないか」
「違う。もういい。死ね」
刀――天叢雲を構えた黎は、大きく振りかぶって帯電させた雷を牛鬼と悪路王目掛けて放った。
雷光が曲がりながら牛鬼を直撃して真っ白な光と悲鳴と轟音が轟く。
牛鬼はともかく悪路王はこんなことでは死なないだろう。
黎は再び刀を構えて光が収まるのを待った。
一瞬たりとも油断はしなかった。
「旦那…あんた鬼頭の当主だろ?なんで人に加担しているんだ?あんた人を食う側だろ?」
「…俺は人と妖の領域を多分に侵してはならないと思っている。最初に侵したのはお前だ。だから神羅が起った。お前がこれ以上人を襲わなければ丸く収まる」
「収まるわけないだろ。人は食い物だ。いい声を奏でて俺たちに食われるだけの存在だろ」
「違う。悪路王、お前は何故人を襲い始めた?そんな噂は今まで耳に入って来なかったぞ」
黎は鳥居の傍に気絶した神羅の身体を横たえさせて、悪路王に話しかけながら距離を縮めていた。
そのぎらぎらした目つきと吹き出る妖気に牛鬼が怯えてまごまごすると、悪路王は牛鬼の頭を拳で強く殴って跨った。
「ひょんなことで人の血肉を味わっちまったんだ。それからはもう人の虜よ。食っても食っても腹が満たされない。旦那もその女を食いたくて傍に居るんだろ?裏切るつもりなんだろ?」
「…」
話している間にも神羅の体内には毒が回り続けている。
このままではすぐ心臓が止まってしまい、二度と会えなくなる――
――黎は抜いた刀の切っ先を上空に向けた。
すると轟音と共にその切っ先に雷が落ちて、帯電してぱりぱりと音を立てて光った。
「あれは俺の獲物なんだ。お前が先なのは分かっているが、譲るつもりはない。毒なんか使うと…不味くなるだろうが」
「ああ!やっぱり食うつもりだったのか!旦那、俺と同じじゃないか」
「違う。もういい。死ね」
刀――天叢雲を構えた黎は、大きく振りかぶって帯電させた雷を牛鬼と悪路王目掛けて放った。
雷光が曲がりながら牛鬼を直撃して真っ白な光と悲鳴と轟音が轟く。
牛鬼はともかく悪路王はこんなことでは死なないだろう。
黎は再び刀を構えて光が収まるのを待った。
一瞬たりとも油断はしなかった。